崖っぷち日本のユートピア社会学by大山昇悟

崖っぷちに立っている日本をどうしたらユートピア(理想郷)にできるか日々考え答えを探していくブログです

読書人口倍増計画・お勧め本1「同志少女よ、敵を撃て」

今回お勧めする「同志少女よ、敵を撃て」(逢坂冬馬/早川書房)は、2022年の本屋大賞受賞作品である。

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著者が意図したのかどうかはわからないが、同書は2021年11月に発売されており、ほぼ同時期にロシアがウクライナとの国境付近に10万人以上の軍隊を集結させていた時期と重なる。年が明けて2022年の2月にはロシアがウクライナに侵攻したこともあり、作品では第二次世界大戦独ソ戦を扱っていたこともシンクロしたのか、少なからず話題になったようである。

 

↓5月下旬の朝日新聞より、同書はフィクション部門で堂々の2位!

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筆者がこの本を読むきっかけになったのは、テレビ東京の番組で、ロシア・ウクライナ紛争における「ロシアの論理」を解説していたキャスターが強く推薦していたからである。(番組自体も非常に公平な視点で今回の紛争を解説していた)

 

あらすじ

独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?】(Amazonより)

 

主人公のセラフィマは、村では割と秀才で、大学に入った後は外交官になるのが夢であった。とはいえ村では母親と共に獣害を防ぐ為に、村の近辺の山々で鹿を猟銃で打つことなどもしている。

そんなセラフィマの日常は、ドイツ軍が村に押し入ってから一変する。

以降、セラフィマは狙撃の名手で名高い女性イリーナの元で、自分と同世代の女性達と共に狙撃の訓練に励む事になる。

セラフィマは、その後狙撃訓練所を経て、各地を狙撃兵として転戦するのだが、そこで出会う様々な人達の価値観、考え、行動を知るにつけ、心が揺れるのだった。

例えば狙撃訓練所にいる同期の女性たちの中には、共産主義体制下にあっての貴族出身の女の子」や、「ロシアとドイツに都合よく利用されるウクライナ出身の女の子」スターリングラードで出会った、「ドイツ兵と恋仲になったロシア人の女性」など、必ずしも「戦争の犠牲になったロシア人女性」という単純な見方だけではないことを知るのである。

当初は戦闘のモチベーションを「女性を守る為」というところに置いていたセラフィマは、次第に何が善で何が悪なのか?戦争における加害者、被害者とは?正義とは何か?をぼんやりと考え始める。

読者もただでさえあまり知識がない(筆者もだが)第二次世界大戦独ソ戦において、様々な登場人物の背景や心情を読み進めれば、単純に当事国に対して善悪のレッテルなどは貼れなくなってしまうだろう。

この物語は実際にあった戦争を舞台に、実在したロシアの女性狙撃隊を主人公に据えている。狙撃の方法や、戦闘描写はかなりリアルであり、狙撃兵と歩兵の仲が悪い理由など、著者が沢山の資料を元に執筆したであろう苦労が窺い知れる。

 

特にセラフィマが物陰に隠れつつ、ドイツ軍の狙撃兵と対決する場面はほんの1秒、2秒の「照準を合わす→撃つ」の差が自身の命運を分けるので、派手な銃撃戦より静かな緊迫感が伝わってくる。この辺りはクリント・イーストウッド監督の「アメリカン・スナイパー」を彷彿とさせるのである。

 

物語が進むにつれて、セラフィマは母親を殺したドイツ兵のイェーガーを徐々に追い詰めていく。読者はイワノフセカヤ村にいた頃のセラフィマを知っているだけに、狙撃兵として優秀な実績を上げていくにつれ、人間が変わっていくようなセラフィマを見るのが辛くなるかもしれない。

 

また、故郷の村人達を虐殺したドイツ兵と、狙撃兵のイェーガーも読者の視点で見れば、これもまた単純に悪のレッテルを彼らに貼れなくなる事情も物語の中で明かされていく。

 

セラフィマは果たして、母親と村人達の仇を取ることが出来るのか?そしてその時、撃つべき敵とは誰なのか?

 

「同志少女よ、敵を撃て」は、ロシア・ウクライナ問題に決着がついていない今こそ読むべき本だと思う。

 

 

 

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